難易度 ★★★★☆

夏至の塔、季違ひの雁


夏至の塔、季違ひの雁

夏至の候、陽は天頂に極まりて、青天に五重塔のそびゆるを仰ぎ申す。甍を一層また一層と数へあぐれば、暑気もいよよ盛りにて候。

ふと、そのかなたの夏雲に目を遣れば ── 棹(さを)の形に列なして、空を裁ちゆく影ひとつ。雁にて候。されど訝(いぶか)し。雁は秋に北より渡り、春に帰る鳥。この炎天の夏空に舞ふ道理は、ついぞござらぬ。

これぞ手前の忍ばせし「季違ひ」の目配せ。絵をただ見たるままに受け取るなかれ、との合図にて候。塔は塔のみにあらず、雁も雁のみにあらず ── 絵に宿る音を、上より下へ繋ぎてごらうじよ。

されば、御覧じよ。

陽の極まる夏至、青天に五重塔がそびえ、 ふと見上ぐれば、夏には来ぬはずの影が一棹(ひとさお)、渡りゆく ── 何とも季(とき)違ひの眺め、ひと繋ぎに読み解かば、顕るるは ── 夏に旬を迎ふる、膳のひと品。さて、何と申す。

絵に宿る二つの音

これぞ「判じ絵(はんじゑ)」と申す古き趣向。描かれしものの名を、字義にあらず音にて読み拾ふ。

塔(たふ)の名と、雁(かり)の名 ── そのいずれをも、いま一つの音にて訓みなされ。上より下へ繋ぎて声に出さば、旬は夏なれど名に「冬」を負ふ、膳のひと品が顕るるはず。

答えを見る

答え ── 冬瓜(とうがん)

描かれしものを、音にて読み拾へば ──

五重とう
夏空のがん
ひと繋ぎに重ねてとうがん

とう + がん = 冬瓜(とうがん)

冬瓜は「冬」の名を負ひながら、旬はまさに夏。皮厚く、冷暗所に置けば冬までも保つゆゑの名とも申す。煮て冷やせば舌に涼しく、ほてりし身を鎮むる、夏の膳のひと品にて候。

ここに趣向の妙のあり。夏至の絵に「冬」の名の野菜を忍ばせ、しかも秋に渡るべき雁を、あへて夏空に舞はせ申した。── この「季違ひの雁」こそ、名と旬の捻れをあらかじめ告ぐる、ささやかな目配せにてありける。

夏に「冬」を冠する名、秋の鳥を夏空に遊ばする絵。季のあはひに捻れを仕込みて、なほ一語に解けゆく ── 問と解、その間(あはひ)に橋を架くるが、手前の生業(なりはひ)。暦のうつろひと言の葉の戯れ、その出会ふところに、夏のひと涼みもござる。

X(旧Twitter)で原典を見る →