呼び名は移ろひて
暑さは日ごとに募る頃ほひ、いかがお過ごしにござろうか。
江戸の夏には江戸の涼あり。軒に吊るして音を聞き、棚に這はせて日差しを遮り、膳に載せてつるりと喉を通す ── 道具も食べ物も、涼をとる知恵は今に変はらぬ。されど、物は同じでも、呼び名は時とともに移ろふもの。今宵の御題は、その移ろひを辿る三品にござる。
御題
暑さは日ごとに募る頃ほひ。 軒に、棚に、膳に ── いづれも夏の涼にござる。 添へたる題字は古き呼び名。 今の呼び名にて、三つ申されよ。 答へは、かなにて四文字・三文字・四文字。
絵に描かれし三品には、それぞれ古き呼び名が題字として添へてござる。さて、今の世では何と呼ぶか。
指折り数へて、四・三・四
答へは、いづれも今の世で通る呼び名。かなに直して指を折れば、四文字・三文字・四文字となる約束。もし数の合はぬ名が浮かんだら ── 惜しい、それは別の道にござる。今いちど、指を折られよ。
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| 古き呼び名 | 読み | 今の呼び名 |
|---|---|---|
| 風鐸 | ふうたく | ふうりん(風鈴) |
| 蔓茘枝 | つるれいし | ゴーヤ |
| 凝り心太 | こごりところてん | かんてん(寒天) |
風鐸は、もとは寺院の堂塔の軒の四隅に吊るされた青銅の鐸。魔を払ふ音とされたその響きが、やがて町家の軒先に降り、夏の涼を呼ぶ風鈴となり申した。
蔓茘枝は、実の姿が茘枝(れいし=ライチ)に似た蔓草の意。蔓茘枝から苦瓜へ、苦瓜からゴーヤへと、名を三段に移して今に至る。なほ「にがうり」「ゴーヤー」も正しき呼び名なれど、本問は音数にて一つに定めた次第。
そして三つ目 ── ここが本問一番の関所。凝り心太と心太は、別物にござる。心太(ところてん)を冬の寒空に晒せば、凍み、乾き、白く軽き干物と変ずる。これぞ寒天。凍み固まった心太、すなはち「凝り心太」の名の由来にござる。その命名、明の渡来僧・隠元禅師によると伝はる(禅師はいんげん豆にも名を残す御仁)。「ところてん」と読みたくなるが人情なれど、指を折れば五文字 ── 四文字の約束が、静かに道を分けてくれる寸法。
おまけ
翌日、いま一問を添へ申した。
昨日の問ひに、続きをひとつ。 三つの答へを、今の書きと読みの順にて、かなで切れ目なく読まれよ。 三文字の言葉が二つ、隠れてござる。
名の境に、こだはるべからず
三つの名を一本の川と見て、音の流れのままに読まれよ。隠れた言葉は、名と名の境をまたいで潜んでござる。
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三つの答へを、書きの順にかなで続ければ ──
ふうりんごーやかんてん
名の境をまたいで、りんごとやかん。三文字の言葉が二つ、隠れてをり申した。
呼び名は移ろへど、物はそのまま残る。そして名と名の境も、耳に聞けばただ一筋の音の川 ── 切れ目を捨てて初めて見える言葉のあるところ、これもまた言の葉の不思議にござる。
次なる謎、また改めて。