難易度 ★★★☆☆

和同開珎・絵図 其の三(夏の厄払い)


和同開珎・絵図 其の三(夏の厄払い)

コンチキチン ── 祇園囃子の音を思ひ浮かべつつ、この帖を開いてくださった御仁に御礼申し上げる。をりしも本日七月二十四日は、後祭の山鉾巡行の日。答合せの日取りが祭の佳き日に重なったは、何よりの縁と存ずる。

さて、和同開珎の絵図も、風・水と数へてこれが三度目。古き銭の形に倣ひ、真ん中の一字と四方の絵が手を結ぶ趣向は変はらねど、今度の一字は、夏の厄を払ふ祭にゆかりの字にござる。

御題

夏の疫を払ふ祭は、国のあちこちにござってな。 四つの絵は、真ん中の一字を待ってをる。 絵はいづれも一字の見立て ── 矢印の向きに真ん中と繋げば、四つの言葉が立ち申す。 さて、その一字やいかに。

絵図の四方には ── 上に、星の瞬く宵の空。左に、三つ葉の紋どころ。右に、編み笠がひとつ。下に、車の輪がひとつ。上の絵は真ん中へ入り、左と右と下の絵は真ん中から出る向きに、矢印が引かれてをり申す。

紋どころの読み、と申せば

四つの言葉は、いづれも夏祭の景色のうちに見つかり申す。されど油断召さるな ── 真ん中と繋いでのち、読みの化ける言葉が二つ紛れてをる。左の紋と下の車、出来上がった二字を、字のままの音で読んではなりませぬ。

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答は 「山」 ── やま、さん、いづれの読みにても正解にござる。

繋ぎ言葉読み
宵の空宵+山宵山よいやま
編み笠山+笠山笠やまかさ
車の輪山+車山車だし
三つ葉の紋山+葵山葵わさび

宵山は京の祇園祭の宵、山笠は博多の夏の顔。山車と山葵の二つは、字の音訓をいくら並べても出てこぬ読み ── いはゆる熟字訓にて、ここが本図の関所にござった。

宵山と山笠、同じ祈りの水脈 ── 祇園祭の始まりは、貞観十一(八六九)年と伝はる。都に疫病が流行った折、当時の国の数に因んで六十六本の矛を立て、神泉苑に神輿を送って悪疫を封じた「祇園御霊会」がそれで、天禄元(九七〇)年よりは毎年の祭となった由。この京の型が国のあちこちへ広まって、町々の夏祭の姿となり、博多祇園山笠もその流れを汲む一つと言はる。櫛田神社の素盞嗚の神も、天慶四(九四一)年に京の祇園社より迎へられたと伝はり申す。御題の口上「夏の疫を払ふ祭は、国のあちこちに」は、この水脈のことにござった。

葵尽くしの拾ひ物 ── 山葵の「葵」の字は、葉の形が葵に似るゆゑ当てられたと言ひ習はさる(名の起こりそのものには諸説あり)。さらに一つ。駿河は有東木の山葵、徳川家康公に献ぜられてその味を絶賛され、葉が徳川の御紋・葵に通ずるとて御公儀の庇護を受け、栽培の技は門外不出となったと伝はる。絵図の左に据ゑた三つ葉の紋どころ、実はこの逸話への目配せにござった。厄を払ふ祭の字が、膳の上の涼にも通ふとは、面白きものにござりませう。

おまけ

翌日、すでに一字を手にされた御仁へ、今ひとつの座興を出してござる。

昨日の一字、すでに手の内にある御仁へ。 新たな相方は ──「鉾」。 コンチキチンの音が響く祇園祭は、いづこの町の顔か。 この音がまた響く頃、答合せを。

相方と並べて、二字

昨日の答の後ろに「鉾」を据ゑれば、祭の曳き物の総名が立ち申す。あとは、その巡行の町を思ひ出すのみ。

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答は 「京都」 ── 京、京の都、いづれも正解にござる。

山に鉾を継げば「山鉾」。豪奢な懸装をまとった山鉾が都大路を巡る山鉾巡行こそ、祇園祭の華 ── すなはち京都の顔にござる。前祭は七月十七日、後祭は七月二十四日。おまけの結びに置いた「この音がまた響く頃」とは後祭のことにて、本日この帖にて答合せと相成った次第。

宵山、山笠、山車、山葵 ── 「山」の一字は、祭の賑はひにも、膳の上の一さじにも住んでをる。千年あまり前の厄払ひの祈りが、いまも夏の町々に囃子となって響いてをるかと思へば、一字の重みもまた格別にござる。

次なる謎、また改めて。

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