和同開珎・絵図 其の二
長雨つづく水無月の候、ふと懐(ふところ)の古銭を取り出だし候。和同開珎(わどうかいちん)── 千三百年の昔、この国に初めて鋳られし銭にて、真ん中に四角き穴の空きたるが、その姿の常にござる。
この穴を眺めをるうち、ふと一つの趣向を思ひつき申した。穴のまはりに四つの絵を配し、それぞれを真ん中の一字と継がば、いづれも馴染みの言葉と成る ── さやうな絵解きにて候。
されば、御覧じよ。
真ん中の四角き穴を、四つの絵が囲む趣向にて候。
矢印のままに、絵と真ん中の一字とを継ぎてみなされ。中へ向かふ矢印は「絵+一字」、外へ向かふ矢印は「一字+絵」と読む。いづれも、世に馴染みの二字の言葉と成り申す。
四方の絵は互ひに縁(えん)なきが如し ── されど、真ん中のただ一字が、これを残らず束ねたり。さて、その一字、何と申す。
四方を束ぬる、真ん中の一字
四つの絵は、それぞれが一字を表しをり申す。矢印の向くままに、その字を真ん中の一字と組み合はせば、二字の言葉に。中へ向かふ矢印は「絵+〇」、外へ向かふは「〇+絵」と読み申す。
四つの言葉、いづれもこの一字を分かち持つ。一つでも言葉が見えなば、その一字こそ、残る三つをも繋ぐ鍵にて候。
なほ、絵の中には読みの意外なるものも。素直な訓みにとらはれず、漢字に直して考へなされ ── 海の生き物の名など、その好き例にござる。
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答え ── 水(みづ)
矢印のままに、四つの絵を真ん中の一字「水」と継げば ──
| 方角 | 絵の表す字 | 矢印 | 成る言葉 |
|---|---|---|---|
| 上 | 雨 | 中へ(雨+水) | 雨水(うすい) |
| 左 | 香 | 中へ(香+水) | 香水(こうすい) |
| 右 | 母 | 外へ(水+母) | 水母(くらげ) |
| 下 | 車 | 外へ(水+車) | 水車(すいしゃ) |
四方の言葉、雨水・香水・水母・水車 ── 一見すれば、長雨と装ひの匂ひと海の生き物と水汲みの車、互ひに何の縁もなきが如し。されど、いづれも「水」のただ一字を真ん中に頂きて、はじめて言葉と成る。これを束ぬる一字こそ、答えの「水」にて候。
中にも一興は「水母」── 「すいぼ」ならで「くらげ」と訓む。海月とも書くが、水の母と記してあの透き通る生き物を指すとは、古人の見立ての妙にござる。
(「みづ」と歴史的仮名に書くもよし、「すい」と音に読むもまた一解。中央の一字に辿り着かば、いづれも正解と致しまする。)
問と解、その間(あはひ)に橋を架くるが、手前の生業(なりはひ)。四方に散らばりて縁なきと見えしものが、ただ一字のもとに集ひて、思はぬ言葉を結ぶ ── 和同開珎の穴のごとく、真ん中の小さき空(くう)が、まはりのすべてを束ぬることもござる。さやうな眺めも、また一興にて候。