七夕・短冊、頭を揃へて
七月七日、七夕の宵。天の川を仰ぐ軒端に、笹の葉さらさら ── 五色の短冊が、めいめいの願ひを載せて揺れてをり申した。
赤には織姫を想ふ一途な恋、黒には学びの誓ひ、青には古への旅人への憧れ、黄には再会の願ひ、白には友を求むる幼き声。いづれも、どこの軒先にもありさうな、素直な願ひ事にござる。
されど ── この五枚、ただの短冊にあらず。
御題
七夕や、笹の葉さらさら。 五色の短冊、軒端に揺れる。 めいめいの短冊、頭を揃へて笹より下がる ── その頭を、左より順に口ずさんでごらんじろ。 七夕にふさはしき、あるものが結ばれ候。
短冊の頭、左より順に
願ひの文の中身を読むにあらず。五枚の短冊、それぞれの最初の一字にのみ、目を留められよ。左の赤より、右の白まで。
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答へは ── 願ひ事(ねがいごと)。
五枚の短冊の頭の字を、左より順に拾へば ──
| 順 | 色 | 願ひの文 | 頭の字 |
|---|---|---|---|
| 一 | 赤 | ネットでもさがしてしまふ ひこぼしをいちずにおもふおりひめ | ね |
| 二 | 黒 | がつこうでのべんきよう がんばりたい | が |
| 三 | 青 | いにしえにおもいをはせて さいぎょうのわらじもかかれまつのつゆ | い |
| 四 | 黄 | ごえんがありますように またあの人にあえるだろうか | ご |
| 五 | 白 | ともだちがいっぱいできるかな | と |
ね・が・い・ご・と = 願ひ事 ── 短冊に書くものそのものが、短冊の頭に隠れてをり申した。
かやうに、各行(各枚)の頭に言葉を隠す技を「折句(をりく)」と申す。古くは『伊勢物語』にて在原業平が「か・き・つ・ば・た」の五文字を句の頭に据ゑて旅の心を詠んだと伝はる、由緒ある言葉の遊びにござる。当帖では十三作目「蛍の見納め」に続く、折句の二作目 ── こたびは句にあらず、五枚の短冊に散らして仕込み申した。
願ひの文が「本物の短冊」に見えるほど、頭の一字には目が向かぬもの。素直に読ませて、素直に隠す ── それが折句の妙にござる。
おまけ ── 翌日の引用にて
七夕の明くる日、この短冊にいま一つの問ひを重ね申した。こちらは骨太、五行の心得が要る一問にござる。
昨日の五つの短冊、頭を揃へて一言を結びましたな。されど、短冊の物語はそれで仕舞ひにあらず。こたびは逆さまに。 五行の巡り、相生と相剋を見据えた先に、色を正しく連ねよ。 さすれば、短冊の隠したもう一言 ── その調べが、おのづと聞こえ候。
五色に、正しき並びあり
七夕の五色は、陰陽五行の五色(青・赤・黄・白・黒)に由来すると伝はる。五行には「相生(さうじゃう)」── 木は火を生み、火は土を生み、土は金を生み、金は水を生む ── といふ巡りの順がござる。色を五行に直し、その順に短冊を並べ替へてごらんじろ。読むべきは、頭にあらず。
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答へは ── 夢叶ふ(ゆめかなう)。
五色を五行の相生順 ── 木(青)→火(赤)→土(黄)→金(白)→水(黒) ── に並べ替へ、こたびは「逆さまに」、すなはち各短冊の最も長く垂れた行の末尾の字を拾ひまする。
| 相生順 | 五行 | 色 | 最も長く垂れた行 | 末尾の字 |
|---|---|---|---|---|
| 一 | 木 | 青 | さいぎょうのわらじもかかれまつのつゆ | ゆ |
| 二 | 火 | 赤 | ひこぼしをいちずにおもふおりひめ | め |
| 三 | 土 | 黄 | またあの人にあえるだろうか | か |
| 四 | 金 | 白 | ともだちがいっぱいできるかな | な |
| 五 | 水 | 黒 | がつこうでのべんきよう | う |
ゆ・め・か・な・う = 夢叶ふ ── 願ひ事を、天の理(五行)の順に整へ直せば、夢が叶ふ。二層を貫く、七夕の物語にござる。
黒の短冊にご注意めされ。 他の四枚はいづれも後の行(二行目)が長く垂れてをるに対し、黒だけは先の行「がつこうでのべんきよう」の方が長い。漫然と二行目の末尾を拾へば「がんばりたい」の「い」に落ち、最後の一字が結ばれませぬ。拾ふべきは、あくまで一番下まで垂れた字 ── この非対称の一点こそ、本問最大の関所にござった。
なほ、七夕に五色の短冊を飾る習ひは、陰陽五行の五色に由来すると伝はり、童謡にも「五色の短冊」と歌はれる通り。黒を忌みて紫に代へる風習も広くござるが、本図は五行の正色 ── 青・赤・黄・白・黒 ── にて仕立て申した。
頭を揃へて読めば「願ひ事」、理に従ひ逆さに読めば「夢叶ふ」。一枚の笹に、願ひとその成就が最初から共に下がってをった ── さう思へば、短冊とは良きものにござるな。
次なる謎、また改めて。