難易度 ★★★☆☆

旧国名に隠された本音


現代語でも読めます

この作品は、現代語版作成中です。

夏の日のこと、武家の娘あり申す。

心通はす若侍は、家祖を誇り、古事(ふるごと)を語るを好み申す。 されど、その語り口や次第に得意げに成り、ややもすれば人を見下す気色さへ漂ひ始めし候。

娘、おもむろに一枚の紙片を取り出し、若侍の手に渡し申す。 そこに記されしは、ただ三つの国の名のみ。

御題

【作問修行】旧国名に隠された本音
歴史好きで見栄っ張りな彼氏に彼女が手渡した
「伊勢」「大和」「出羽」のメモ。
「あなた、歴史好きよね。
今の私の気持ち、受け取って」
彼女の隠された本音とは?

国名を、今の世の名に

旧き国の名、いづれも今の世にては、別の名にて呼びならはせり。 その読みを、ひらがなにて続けて読まれよ。

答えを見る

答へ 「見栄なら飽きた」

旧国名を今の都道府県の読みに置き換へ、ひらがなにて連ね申す。

旧国名今の世の名読み真の意
伊勢三重県みえ見栄
大和奈良県ならなら(ば)
出羽秋田県あきた飽きた

連ねて読めば、「みえ・なら・あきた」 ── すなはち「見栄なら、飽きた」。

これぞ、娘の本音の文(ふみ)にござる。


仕掛けの妙、三つ

一. 「みえ」を「見栄」と読み替ふる転(てん)

「三重」の読み「みえ」と、虚栄を意味する「見栄」── 同じ音にして、その意は天と地ほどに異なり申す。 視(め)に映る「見え」と、人に見られんとする「見栄」。 この一語の妙が、娘の心の機微を浮かび上がらせる。

二. 「なら」の二重(ふたへ)

「奈良」の読み「なら」は、地名にして接続助詞「ならば」に通ず。 地名のままでは意味を成さねど、ここで「ならば」と読み返すことで、初めて文意が立ち上がる。 地名と語法を一語に重ねし掛詞、これも一つの粋(すい)なり。

三. 出羽の分国(ぶんこく)

出羽国は、明治元年十二月七日(西暦にて一八六九年一月十九日)に 羽前(うぜん・今の山形県) と 羽後(うご・今の秋田県) に分かたれ申した。

ここで「山形(やまがた)」を選びては、文は「みえ・なら・やまがた」となり、意を成さず。 歴史好きの若侍ほどに、古き「出羽=羽前(山形)」を当てに行くやもしれぬ。 されど、答へは「秋田」にこそあり。

すなはち、若侍の歴史知識そのものが、娘の仕掛けの一部となつてゐる。


人物造形こそ、仕掛けへの伏線

X投稿の文(ふみ)に、「歴史好きで見栄っ張りな彼氏」と記されし候。 これは単なる人物紹介に非ず、仕掛けへの二重の伏線にござる。

  • 「歴史好き」── 旧国名を今の都道府県に変換せよ、との示唆
  • 「見栄っ張り」── 「見え」を「見栄」と読み替へよ、との示唆

つまり、若侍自身の人となりが、解の鍵を兼ね申す。 娘の文(ふみ)は、若侍にだけ意味を成す ── 否、若侍のやうな者にだけ刺さる、誂(あつら)への謎なり。

これぞ、本作の真の妙味。

★ 解いた御仁への、二つの土産話

一. 「三重」の名は、疲れ果てし英雄の一言より生まれ申した

『古事記』に曰く、東国を平げし倭建命(やまとたけるのみこと)、帰る道すがら次第に足弱り、「吾が足は三重の勾(まがり)の如くして甚だ疲れたり」と洩らされしとか。足が三重に折れ曲がるほど疲れた、との謂ひにて、その地を三重と号(なづ)けたと記されてござる。

されどこれは郡の名。県の名と成りしは明治五年三月、安濃津県の県庁が津より三重郡四日市へ移されし折にござる。

★面白きは、その後にて ── 県庁はほどなく津へ戻り申した。されど名は「三重」のまま据ゑ置かれた。中身は去り、名だけが残る。見栄の一字と、いささか似た話にござらぬか。

二. 「出羽」は、越後の北の端にて生まれし名にござる

『続日本紀』和銅元年(七〇八)九月の条に、越後国が北に出羽郡を建てんと請ひ、許されたとござる。これが出羽の名の初見にて、古くは「いでは」と読み申した。四年の後、和銅五年(七一二)に郡は国へ昇り申す。

以来千百五十余年、出羽は一国にて在り申したが、明治元年十二月七日、戊辰の戦に敗れし奥羽越列藩同盟への処分にて、羽前・羽後に分かたれ申した。

★娘の紙片の「出羽」は、千百年の一国と、その割れ目に立つ「秋田」と、二つの時を同時に指してござる。

別解のこと

受ける ── 「見栄なら、飽きた」「みえならあきた」など、読点の有無や仮名書きは問ひ申さぬ。音が揃うてをれば同じ答へにござる。

惜しい ── 「みえ・なら・あきた」までは辿り着きながら、意の切れ目を見出せなんだ向き。器は正しく開いてござる。残るは一息、声に出して読まるるのみ。

受けぬ ── 出羽を「山形」と当つる筋。出羽は羽前(山形)と羽後(秋田)に分かれてござるゆゑ、歴史に明るき御仁ほど山形へ寄られる。されど「みえ・なら・やまがた」は意を成さず。★この躓きこそ、娘が若侍に仕掛けた罠にござる。


地名は、ただの記号に非ず。 その音(ね)に込められし意を聞き分くる耳ありてこそ、人の本音もまた、聞こゆるものにござる。

次なる謎、また改めて。

夏の日のことです。武家の娘がおりました。

心を通わせた若侍は、家の祖先を誇り、古い出来事を語るのを好みます。 けれどもその語り口はしだいに得意げになり、ともすれば人を見下す気配さえ漂いはじめました。

娘は、おもむろに一枚の紙切れを取り出し、若侍の手に渡しました。 そこに記されていたのは、ただ三つの国の名だけ。

御題

【作問修行】旧国名に隠された本音
歴史好きで見栄っ張りな彼氏に彼女が手渡した
「伊勢」「大和」「出羽」のメモ。
「あなた、歴史好きよね。
今の私の気持ち、受け取って」
彼女の隠された本音とは?

国名を、今の名前に

旧い国の名は、どれも今の世では別の名前で呼ばれています。 その読みを、ひらがなで続けて読んでみてください。

答えを見る

答え 「見栄なら飽きた」

旧国名を今の都道府県の読みに置き換え、ひらがなで連ねます。

旧国名今の名前読み本当の意味
伊勢三重県みえ見栄
大和奈良県ならなら(ば)
出羽秋田県あきた飽きた

連ねて読めば、「みえ・なら・あきた」 ── つまり「見栄なら、飽きた」。

これが、娘の本音の手紙でした。


仕掛けの妙、三つ

一. 「みえ」を「見栄」と読み替える転(てん)

「三重」の読み「みえ」と、虚栄を意味する「見栄」── 同じ音でありながら、その意味は天と地ほどに違います。 目に映る「見え」と、人に見られようとする「見栄」。 この一語の妙が、娘の心の機微を浮かび上がらせます。

二. 「なら」の二重(ふたえ)

「奈良」の読み「なら」は、地名でありながら接続助詞「ならば」に通じます。 地名のままでは意味を成さないのに、ここで「ならば」と読み返すことで、はじめて文意が立ち上がる。 地名と語法を一語に重ねた掛詞、これも一つの粋(すい)です。

三. 出羽の分国(ぶんこく)

出羽国は、明治元年十二月七日(西暦一八六九年一月十九日)に 羽前(うぜん・今の山形県) と 羽後(うご・今の秋田県) に分けられました。

ここで「山形(やまがた)」を選ぶと、文は「みえ・なら・やまがた」となり、意味を成しません。 歴史好きの若侍ほど、古い「出羽=羽前(山形)」を当てに行くかもしれません。 けれども、答えは「秋田」にこそあります。

つまり、若侍の歴史知識そのものが、娘の仕掛けの一部になっている。


人物造形こそ、仕掛けへの伏線

X投稿の文に、「歴史好きで見栄っ張りな彼氏」と記されていました。 これは単なる人物紹介ではなく、仕掛けへの二重の伏線です。

  • 「歴史好き」── 旧国名を今の都道府県に変換せよ、という示唆
  • 「見栄っ張り」── 「見え」を「見栄」と読み替えよ、という示唆

つまり、若侍自身の人となりが、解の鍵を兼ねています。 娘の手紙は、若侍にだけ意味を成す ── いえ、若侍のような人にだけ刺さる、誂(あつら)えの謎なのです。

これが、本作の本当の妙味です。

★ 解いた方への、二つの土産話

一. 「三重」の名は、疲れ果てた英雄の一言から生まれました

『古事記』によれば、東国を平定した倭建命(やまとたけるのみこと)は、帰る道すがらしだいに足が弱り、「吾が足は三重の勾(まがり)の如くして甚だ疲れたり」と洩らしたといいます。足が三重に折れ曲がるほど疲れた、という意味で、その地を三重と名づけたと記されています。

けれどもこれは郡の名前。県の名前になったのは明治五年三月、安濃津県の県庁が津から三重郡四日市へ移されたときのことです。

★面白いのはその後で ── 県庁はほどなく津へ戻りました。それでも名前は「三重」のまま据え置かれた。中身は去り、名前だけが残る。見栄の一字と、どこか似た話ではないでしょうか。

二. 「出羽」は、越後の北の端で生まれた名前です

『続日本紀』の和銅元年(七〇八)九月の条に、越後国が北に出羽郡を建てたいと願い出て、許されたとあります。これが出羽の名の初見で、古くは「いでは」と読みました。四年後の和銅五年(七一二)に、郡は国へ昇格します。

以来千百五十年あまり、出羽はひとつの国でしたが、明治元年十二月七日、戊辰戦争に敗れた奥羽越列藩同盟への処分によって、羽前・羽後に分けられました。

★娘の紙切れの「出羽」は、千百年続いた一国と、その割れ目に立つ「秋田」と、二つの時を同時に指しているのです。

別解のこと

受ける ── 「見栄なら、飽きた」「みえならあきた」など、読点の有無や仮名書きは問いません。音が揃っていれば同じ答えです。

惜しい ── 「みえ・なら・あきた」までは辿り着きながら、意味の切れ目を見つけられなかった方。仕掛けは正しく開けています。残るは一息、声に出して読むだけです。

受けない ── 出羽を「山形」と答える筋。出羽は羽前(山形)と羽後(秋田)に分かれていますから、歴史に明るい方ほど山形へ寄ってしまう。けれども「みえ・なら・やまがた」は意味を成しません。★この躓きこそ、娘が若侍に仕掛けた罠でした。


地名は、ただの記号ではありません。 その音(ね)に込められた意味を聞き分ける耳があってこそ、人の本音もまた、聞こえてくるものです。

次の謎は、また改めて。

現代語でも読めます

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