四つの景、空を読む
御題
古の人は、これにて晴雨を知り申した。 四つの絵に通ずるもの、その名を申されよ。
空の言ひ伝へ、と申せば
燕・蛙・朝焼け・蜘蛛の巣 ── いづれも空模様の言ひ伝へにござる。まとめて何と呼ぶか、その名を思ひ出されよ。
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観天望気(かんてんぼうき)
※「天気の言ひ伝へ」「天気のことわざ」「天気俚諺(りげん)」も正解の内にござる。
天を観て、気を望む ── 空や雲、生き物の振る舞ひから天気の先行きを読む古来の知恵を、観天望気と申す。天気図も衛星もなき時代、漁師や船乗りが命を懸けて磨いた経験の学問にござった。
四つの景、それぞれの理屈を明かさば ──
朝焼けは雨 ── 日の本の空は偏西風の通り道、天気は西から東へと渡り申す。朝焼けが美しく見えるは、東の空が晴れてをる証 ── すなはち晴れをもたらす高気圧がすでに東へ去り、西から次の崩れが近づく頃合ひといふ寸法。もっとも、この言ひ伝へは春秋によく当たり、夏冬は外れやすいとの但し書きがござる ── 夏の盛りにこの問ひを出した趣向、笑って許されよ。
燕が低く飛べば雨 ── 雨の前は湿り気が増し、燕の餌となる小虫の羽が水気を帯びて重くなる。虫が低く飛べば、それを追ふ燕もまた低く舞ふ ── 観天望気で最も名高き一例にござる。
蛙が鳴けば雨 ── 蛙は息の三割から五割を皮膚にて賄ふ生き物。雨の前の湿った空気は、この皮膚の息が楽になる頃合ひゆゑ、蛙どもが俄かに活気づいて鳴き交はす、と説かれてござる。
蜘蛛が朝の巣を張れば晴れ ── 蜘蛛の巣は雨に弱く、すぐに壊れてしまふ。ゆゑに蜘蛛は、天気が持つと見た朝にこそ精を出して網を張る。巣に朝露が光るは、よく晴れて冷え込んだ夜の証 ── これもまた晴れの姉妹伝承にござる。
おまけ
昨日の問ひに、続きをひとつ。 四つはいづれも古の言ひ伝へ。されど携へる報せは、三つと一つに分かれてござる。 仲間外れは、いづれか。
三つは雨の知らせ、ひとつだけ──
鳥か、蛙か、虫か ── 姿かたちの話に非ず。四つが各々、何の前触れとされしかを思ひ出されよ。
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蜘蛛(蜘蛛が朝の巣を張る)
朝焼け・低く飛ぶ燕・鳴く蛙 ── 三つはいづれも雨の報せ。独り蜘蛛のみが晴れを告げてござる。
「鳥・蛙ときて、虫が仲間外れ」と姿かたちで読んだ御仁は、惜しい ── 燕も蛙も生き物なれば、その軸では朝焼けこそ外れになり申す。真の分かれ目は、告げる空の色にござった。