真昼の畑、一本の背き
照る日が幾日も続いてござる。
向日葵といふ花は、その名の通り日を追ふもの ── と、世には申す。畑いちめん、みな揃うて同じ方を向いて咲いてをる姿は、いかにも気持ちのよいものにござる。
されど、揃うてをればこそ、揃はぬ一本が目に立つ。
真昼の畑に立ち、その一本をしばらく眺めてをりました。萎れてをるでもなく、丈が足らぬでもなく、色も他と違はぬ。ただ、向きだけが違ふ。
畑の足もとには、瓜が四つばかり転がつてござる。
御題
【作問修行】真昼の畑、一本の背き
照る日、幾日も続きて。 この畑の向日葵、みな南の日を向いて咲く。 されど一本ばかりは、沈む日の方を向いて暮れを待つ。
この畑に未だ無き、何が実る。
畑にあるものを、名で見よ
足もとに転がる四つ、名の末はみな同じ一字にござる。
残るは、向き。みなの向く先と、背く一本の向く先 ── いづれも、字にほどける。
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答へは 西瓜(すいか)。
| 畑にあるもの | ほどけば |
|---|---|
| 向日葵はみな南の日を向く | 南 |
| 背く一本は沈む日=西を向く | 西 |
| 足もとに転がる四つの瓜 | 瓜 |
三つの片が出そろへば、組める名は二つ ── 南瓜 と 西瓜。
されど御題は「この畑に未だ無き」と申してござる。南瓜は、その畑に現に転がつてをる。ゆゑに、未だ無きは 西瓜 の一つにござる。
背いた一本は、答へを指してをつたのではござらぬ。答への半分を指してをつた ── 残る半分は、足もとに転がつてござつた。
西瓜の「西」は、西域より渡り来たことに因むと言ひ伝へらる。「すいか」の音も、中国での呼び名の音を写したものとの説がござる。畑の一本が向いてをつたのは、この瓜が渡つて来た方角 ── さう読めば、あの背きも少し違うて見え申さぬか。
おまけ
翌る日、すでに解かれた御仁へ、今ひとつ問ひを掛け申した。
昨日の一問、すでに解かれた御仁へ、今ひとつ。
あの畑に転がりし四つの瓜。 名の頭を見よ ── ふたつは渡り来た所を、ひとつは時を、ひとつは味を語つてござる。
どれがどれぞ。
仮名を、漢字へ引き直せ
ゴーヤも、きゆうりも、日ごろは仮名で書き申す。
漢字に直せば、頭の一字がおのづと見えてござる。
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| 瓜 | 頭の字 | 語るもの |
|---|---|---|
| 南瓜 | 南 | 渡り来た所 ── 南蛮渡来と言ひ伝へらる |
| 胡瓜 | 胡 | 渡り来た所 ── 「胡」は中国より見た西方の諸民族を指す字 |
| 冬瓜 | 冬 | 時 |
| 苦瓜 | 苦 | 味 |
「胡」の字は、胡麻・胡桃・胡椒と同じ一族にござる。いづれも西より渡り来たものに冠せられた字にて、一字が来し方を負うてをる。
面白きは、字の由来と音の由来が食ひ違ふものがあること。
胡瓜は字こそ「胡」なれど、「きうり」の音は「黄瓜」から来たとの説が有力にござる ── 熟して黄ばんだ姿を指した名。今のわれらが青いうちに食ろうてをるゆゑ、名と姿が離れてしまうた形にござる。
南瓜も、字は南蛮渡来を語るが、音の「かぼちや」はカンボジアの名に由来するとの説がござる。字は「南から」と申し、音は「かの国から」と申す ── 同じ瓜の名の中で、二つの道筋が並んで残つてござる。
冬瓜に至つては、冬に穫るものにあらず。夏に穫つて、冬まで保つゆゑの名にござる(表の白い粉を雪に見立てたとの別説もござる)。名は季を語つてをるやうで、実は日保ちの長さを語つてをつた。
※南瓜・冬瓜の由来はいづれも諸説あり、ここでは「と言ひ伝へらる」の幅にて申し上げてござる。
最後に一つ、白状しておき申す。
向日葵は日を追ふ花と申しますが、あれは蕾のうちの話にて、咲き切つた花はおおむね東を向いたまま動かぬのださうにござる。
ゆゑに御題では「この畑の向日葵」と限つて申し上げた。畑ぜんたいの話にはせず、あの畑のあの日の話に留めた ── 謎を組むとは、かやうにどこまでを本当と申すかを決めることでもござる。
背いた一本も、あるいはただ風に押されてをつただけかも知れませぬ。それでも、揃はぬものが一つあれば、人はそこに意味を読む。謎解きとは、その読む力を少しばかり借りる遊びにござる。
次なる謎、また改めて。