難易度 ★★★☆☆

牡丹と涙、その行く末


可憐に咲き誇る牡丹あり、人目を忍ぶ切なき恋の涙あり。共にはらはらと落つる景にして、その行く末を尋ぬれば、ひとつの音、ふたつの貌を持ちて消ゆるなり。

二作目「連鎖謎かけ・皐月に響く」にて、ひとつの音に三つの貌を見出だす謎を仕立て申した。今このたびは、ふたつの貌を秘めし掛詞を以て、別なる景を編み申さん。

御題

【作問修行】牡丹と涙、その行く末

「可憐に咲き誇る牡丹」とかけまして、 「人目を忍ぶ、切なき恋の涙」と解く。

共にはらはらと落ちるものなれど、 その行く末、いずくにか消え去らん。

水無月の頃、この謎掛けの心を解き明かしてみせよ。

散るも消ゆるも、行きつく先は

「はらはらと落つる」── 両者の景に共通するは此の動き。 その行く末こそ、ひとつの音に通ふ謎の鍵にござる。

同じ音を、漢字を変へて二度詠まば、其の心、おのづから顕る。

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その心は ── つゆ

ひとつの音に、ふたつの貌を秘めたる掛詞なり。

解き筋

はらはらと落つるもの行く末漢字
牡丹花弁、雨に散る雨の季節梅雨(つゆ)
滴、瞳より零る草葉の朝露(つゆ)

「可憐に咲き誇る牡丹」も「人目を忍ぶ、切なき恋の涙」も、共にはらはらと落つる ── そして、その行く末はいづれも「つゆ」のうちに消ゆるなり。

「つゆ」の二つの貌

「つゆ」は和歌・俳句に古くより愛されし掛詞にござる。

  • 梅雨(つゆ) ── 旧暦水無月の頃、雨の長く降る季節。植物に潤ひを与へ、また散らす雨。
  • 露(つゆ) ── 草葉に結ぶ滴、瞳より零るる涙、儚く消ゆるものの代名詞。

万葉の昔より「露の命」「露の世」と詠まれて、儚さの象徴たり。江戸の俳諧においても、梅雨と露を一首に詠み込む技法、好んで用ゐられ申した。

連鎖する掛詞のシリーズ

掛詞の数
2作目連鎖謎かけ・皐月に響く三段連鎖しょうぶ(勝負・尚武・菖蒲)
10作目牡丹と涙、その行く末二重掛詞つゆ(梅雨・露)

ひとつの音に複数の貌を見出だす遊び ── 日本の言葉が古来より蓄へし、豊かなる多義性の楽しみにござる。

水無月の雨、牡丹を散らし、涙を草葉に結ばしむ。散るも消ゆるも、行き着く先は同じ「つゆ」のうちに ── これぞ大和言葉の妙にござる。

梅雨入りの頃、雨に濡るる牡丹を見ば、忍ぶ涙に重ね申されよ。いづれも「つゆ」のうちに……

次なる謎、また改めて。

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