難易度 ★★★★☆

三図誰そ彼 其の二


現代語でも読めます

この作品は、現代語版作成中です。

三図誰そ彼 其の二

一枚の紙に、三つの図が並べてござる。

昼の店先、昼の座敷、夜の庭。人も、齢も、刻も違うてござる。

三図誰そ彼、其の二にござる。其の一は、一人の手より生まれた物を三つ並べ申した。此度は物にあらず ── 為したことを三つ、並べてござる。

御題

【作問修行】三図誰そ彼 其の二

かやうな男が、をり申した。

一、酒を醸し、川を鎮め、飢ゑし村に米を出した。
二、五十にして、十九も年下の師に頭を下げた。
三、地の大きさを知らんとして、星を仰いだ。

三つの図、いづれも同じ一人の生涯にござる。
誰そ彼。

ヒント ── 三図を今いちど、齢の順に

絵を今いちど。三つの図、それぞれに込めし景にござる。

  • 其の一・店先の図 ── 酒樽の並ぶ商家。荷を担ぐ男と、帳場で算盤をはじく男。
  • 其の二・座敷の図 ── 畳に手をつき深く頭を下げる年老いた男と、その正面に座る若い男。
  • 其の三・夜の庭の図 ── 星空の下、背の高い器械に手を添へて天を仰ぐ、年老いた男の後ろ姿。

三枚は、齢の順に並べてござる。

すなはち、一枚目の帳場の男と、三枚目の後ろ姿は、同じ一人にござる。

答えを見る

答へは 伊能忠敬(いのう ただたか)にござる。

図句齢のころ
一・店先酒を醸し、川を鎮め、飢ゑし村に米を出した十七〜四十九
二・座敷五十にして、十九も年下の師に頭を下げた五十
三・夜の庭地の大きさを知らんとして、星を仰いだ五十五より後

三つの図は、一人の齢の順にござる

一枚目は、下総国佐原の商家にござる。婿として伊能家を継ぎ、酒造・米穀・水運にて家を再興いたした。名主として川の普請にもあたり、天明の飢饉の折には私財を投じて米を購ひ、窮民に施したと伝はる。二十年で家の実入りは幾倍にもなり申した。

二枚目は、その男が四十九にて家督を長男に譲り、翌年江戸は深川へ出た折の図にござる。門を叩いた先は幕府天文方の高橋至時。時に忠敬五十、至時三十一。十九の年の差を越えて、老いた弟子が若き師に頭を下げてござる。

三枚目は、夜の庭にて象限儀を据ゑ、星の高さを測る姿にござる。知らんとしたは星そのものにあらず ── 子午線一度の長さ、すなはち地の大きさにござつた。

三つの図に、地図が一枚も無い

世があの者と聞いて真つ先に思ひ浮かべるもの ── 日本国中を歩いて地図を作つた男の姿 ── それだけが、三つの図にも三つの句にも、一枚として一字として置いてござらぬ。

地図は名目にござつた。蝦夷地の地図作成を願ひ出て、その道すがら子午線一度を実測する。さういふ企てにて幕府の許しを得たものにござる。

「歩いて日本地図を作つた人」としか覚えてをらぬ者は、三枚の図の前で立ち止まり申す。そこがこの謎の関所にござつた。

★ 解いた御仁への、二つの土産話

一、あの者が得た値は、二十八里二分にござる。

子午線一度の長さ。これを三百六十倍すれば、地球ひとまはりの丈が出申す。現に今日の測りともよく合うてござる。江戸の夜空を仰ぎ、竿と縄で地を刻んで得た数にござる。

二、その値を見て、師弟が手を取り合うて喜んだと伝はる。

師の高橋至時は、西洋の暦書より算した値を持つてござつた。弟子が野より持ち帰つた数と、書物より出た数とが、ほぼ重なつた ── さう伝へられてござる。

五十にして頭を下げた甲斐が、この一夜にあつたと申せませう。

別解のこと

  • 受ける ── いのうただたか/伊能忠敬。綴りの揺れは問ひ申さぬ。
  • 受けぬ ── 渋川春海、高橋至時、間重富。いづれも星を測り暦に関はつた者にて、三枚目だけを見れば確かに立ち申す。されど一枚目の佐原の商家にも、二枚目の五十の弟子入りにも、一枚として掛かり申さぬ。三つ揃へて初めて、一人に絞れる仕掛けにござる。

おまけ

【おまけ謎】

地の大きさを知らんとして、あの者が測つたは二つにござる。

一つは、さきの三句に書いてござる。夜ごと仰いだ、星の高さ。

いま一つは、三句のいづれにも書いてござらぬ。
昼のあひだ、竿を立て縄を延べて、幾年も刻み続けたもの。

何にござるか。

おまけのヒント ── 星だけでは、足り申さぬ

夜に測るは、天にござる。されど天だけを幾ら測つても、地の丈は出申さぬ。

昼のあひだ、竿と縄で刻み続けたもの ── それが揃うて初めて、一つの答が立ち申す。

答えを見る

答へは 道のりにござる。(距離・里数・道程なども受け申す)

子午線一度の長さを知るには、二つが要り申す。

  • 一つは、南北二地点の星の高さの差。これが天の側の目盛りにござる。
  • いま一つは、その二地点を結ぶ地の上の長さ。これが道のりにござる。

天の目盛りだけを幾ら精しく測つても、地の上の長さを知らねば、一度が何里にあたるかは出申さぬ。あの者が幾年も竿を立て縄を延べたは、まさにこの一つを刻むためにござつた。

星と道のり、二つ揃うて初めて地の大きさが出る。三句が書いてゐたは、そのうちの一つだけにござつた。


其の一に立ちし福内鬼外は、名を幾つも持ち替へて世を渡つた男にござつた。

其の二の男は、名を一つのまま、生涯を二つに割り申した。四十九まで商ひ、五十より学んだ。世が覚えてをるは後の半分だけにござれど、前の半分が無ければ、後の半分は立ち申さぬ ── 家産も、川普請で覚えた測りの技も、みなそこから来てござる。

遅きに失したと思ふ齢は、案外、そこには無いのやも知れませぬ。

次なる謎、また改めて。

一枚の紙に、三つの絵が並べてあります。

昼の店先、昼の座敷、夜の庭。人も、年齢も、時刻も違います。

「三図誰そ彼」の其の二です。其の一は、一人の手から生まれた物を三つ並べました。今回は物ではなく ── 為したことを三つ、並べてあります。

御題

【作問修行】三図誰そ彼 其の二

こういう男が、おりました。

一、酒を造り、川を鎮め、飢えた村に米を出した。
二、五十歳で、十九も年下の師に頭を下げた。
三、地球の大きさを知ろうとして、星を仰いだ。

三つの絵は、どれも同じ一人の生涯です。
さて、誰でしょう。

ヒント ── 三つの絵をもう一度、年齢の順に

絵をもう一度。三つの図、それぞれに込めた景色です。

  • 其の一・店先の図 ── 酒樽の並ぶ商家。荷を担ぐ男と、帳場で算盤をはじく男。
  • 其の二・座敷の図 ── 畳に手をついて深く頭を下げる年老いた男と、その正面に座る若い男。
  • 其の三・夜の庭の図 ── 星空の下、背の高い器械に手を添えて天を仰ぐ、年老いた男の後ろ姿。

三枚は、年齢の順に並べてあります。

つまり、一枚目の帳場の男と、三枚目の後ろ姿は、同じ一人です。

答えを見る

答えは 伊能忠敬(いのう ただたか)です。

図句年齢のころ
一・店先酒を造り、川を鎮め、飢えた村に米を出した十七〜四十九
二・座敷五十歳で、十九も年下の師に頭を下げた五十
三・夜の庭地球の大きさを知ろうとして、星を仰いだ五十五より後

三つの絵は、一人の年齢の順です

一枚目は、下総国佐原の商家です。婿として伊能家を継ぎ、酒造・米穀・水運で家を立て直しました。名主として川の普請にもあたり、天明の飢饉のときには私財を投じて米を買い、窮民に施したと伝えられます。二十年で家の実入りは何倍にもなりました。

二枚目は、その男が四十九歳で家督を長男に譲って隠居し、翌年に江戸の深川へ出たときの絵です。門を叩いた先は幕府天文方の高橋至時。このとき忠敬五十歳、至時三十一歳。十九の年の差を越えて、老いた弟子が若い師に頭を下げています。

三枚目は、夜の庭に象限儀を据えて、星の高さを測る姿です。知ろうとしたのは星そのものではなく、子午線一度の長さ ── つまり地球の大きさでした。

三つの絵に、地図が一枚も無い

世間があの人と聞いて真っ先に思い浮かべるもの ── 日本中を歩いて地図を作った男の姿 ── それだけが、三つの絵にも三つの句にも、一枚として一字として置かれていません。

地図は名目でした。蝦夷地の地図作成を願い出て、その道すがら子午線一度を実測する。そういう企てで幕府の許可を得たのです。

「歩いて日本地図を作った人」としか覚えていない人は、三枚の絵の前で立ち止まります。そこがこの謎の関所でした。

★ 解いた方への、二つの土産話

一、あの人が得た値は、二十八里二分です。

子午線一度の長さ。これを三百六十倍すれば、地球ひとまわりの長さが出ます。実際、今日の測定ともよく合っています。江戸の夜空を仰ぎ、竿と縄で地を刻んで得た数でした。

二、その値を見て、師弟が手を取り合って喜んだと伝えられています。

師の高橋至時は、西洋の暦書から算出した値を持っていました。弟子が野から持ち帰った数と、書物から出た数とが、ほぼ重なった ── そう伝えられています。

五十歳で頭を下げた甲斐が、この一夜にあったと言えるかもしれません。

別解のこと

  • 受けます ── いのうただたか/伊能忠敬。表記の揺れは問いません。
  • 受けません ── 渋川春海、高橋至時、間重富。どれも星を測り暦に関わった人で、三枚目だけを見れば確かに立ちます。けれども一枚目の佐原の商家にも、二枚目の五十歳の弟子入りにも、一枚として掛かりません。三つ揃えて初めて一人に絞れる仕掛けです。

おまけ

【おまけ謎】

地球の大きさを知ろうとして、あの人が測ったものは二つあります。

一つは、さきほどの三句に書いてあります。夜ごと仰いだ、星の高さ。

もう一つは、三句のどこにも書いてありません。
昼のあいだ、竿を立て縄を延ばして、何年も刻み続けたもの。

何でしょうか。

おまけのヒント ── 星だけでは、足りません

夜に測るのは、天です。でも天だけをいくら測っても、地球の大きさは出ません。

昼のあいだ、竿と縄で刻み続けたもの ── それが揃って初めて、一つの答えが立ちます。

答えを見る

答えは 道のりです。(距離・里数・道程なども受けます)

子午線一度の長さを知るには、二つが必要です。

  • 一つは、南北二地点の星の高さの差。これが天の側の目盛りです。
  • もう一つは、その二地点を結ぶ地上の長さ。これが道のりです。

天の目盛りだけをいくら精密に測っても、地上の長さを知らなければ、一度が何里にあたるかは出ません。あの人が何年も竿を立て縄を延ばしたのは、まさにこの一つを刻むためでした。

星と道のり、二つ揃って初めて地球の大きさが出る。三句が書いていたのは、そのうちの一つだけでした。


其の一に立った福内鬼外は、名前をいくつも持ち替えて世を渡った男でした。

其の二の男は、名前を一つのまま、生涯を二つに割りました。四十九歳まで商い、五十歳から学んだ。世間が覚えているのは後ろ半分だけですが、前の半分が無ければ後ろ半分は立ちません ── 家産も、川普請で身につけた測量の技も、みなそこから来ています。

遅すぎると思う年齢は、案外そこには無いのかもしれません。

次の謎は、また改めて。

現代語でも読めます

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