難易度 ★★★★☆

連鎖謎かけ・皐月に響く


現代語でも読めます

この作品は、現代語版作成中です。

この一問に、絵はござらぬ。盤は言葉の連なりのみにござる。

謎かけが三段。其の一と其の二の「心」が、そのまま其の三の問ひとなり申す。鎖の環を一つほどけば、次の環が現れる ── さういふ仕掛けにござる。

三つの環の果てに何が居るかは、ほどいてみねば分かり申さぬ。

五月に投げた口上は、かうにござつた。

御題

【作問修行】連鎖謎かけ

・「富くじ」とかけて「人相見」と解く。
その心は【甲】。良くなければ始まりません。

・「据え灸」とかけ「草餅」と解く。
心は【乙】。これぞ主役です。

・【甲】とかけ【乙】ととく。
……五月の空に響く、その「心」は。

三段の鎖、一つずつ

其の一 ── 富くじも人相見も、当たり外れを言ひ当てる商ひ。良し悪しを言はれるのは、目には見えぬ一字にござる。

其の二 ── 灸に据ゑるものと、餅に搗き込むもの。呼び名は違へど、野に生えるは同じ一草。

其の三 ── 其の一と其の二の心を、声に出して並べてごらうじろ。皐月の空から、同じ響きが返つてまいり申す。

答えを見る

答へは 菖蒲(しょうぶ)にござる。

段心拠
其の一運富くじは運試し、人相見は運勢の見立て
其の二蓬(よもぎ)据ゑ灸の主役はもぐさ、草餅の主役はよもぎ。同じ草の別読み
其の三しょうぶ運は勝負の運/蓬は端午の薬草、同じ節句の草が菖蒲

五月五日は尚武の節句、別名菖蒲の節句。勝負・尚武・菖蒲 ── 三つの「しょうぶ」が皐月の空に響き合ふ、さういふ趣向にござつた。

前の二段はそれぞれ一掛け、三段目にて三重の掛詞へ跳ね上がる形にござる。蓬と菖蒲がともに端午の二大邪気払ひとして並び立つ点も、ひそかな結びとなつてござる。

★ 解いた御仁への、二つの土産話

一、菖蒲湯の菖蒲と、あの紫の花菖蒲は、まつたく別の草にござる。

五月五日に湯へ入れるのは、サトイモ科のショウブ〔近ごろの辞書では独立させて「ショウブ科」とするものも増えてござる〕。葉を揉めば強い香りが立ち、その香りこそが邪気を払ふと信じられてまいり申した。花は咲き申すが、黄緑の地味な穂にて、愛でるやうなものではござらぬ。

一方、菖蒲園で見事に咲き誇る花菖蒲はアヤメ科。アヤメ・カキツバタと同じ仲間にて、香りはほとんどなく、湯に入れても効はござらぬ。

葉の形が似てゐたばかりに、同じ名を負うたのにござる。「いづれアヤメかカキツバタ」と申しまするが、混じりやすさで申せば、菖蒲と花菖蒲のはうがよほど厄介やも知れませぬ。

なほ「菖蒲」が「尚武」に通ふとして男子の節句と結びついたのは、武家の世に入つてからのことにござる。

二、もぐさと蓬は、同じ草ながら、同じ物ではござらぬ。

答合せでは「同じ草の別読み」と申したが、いま一段細かく申せば ── もぐさは、蓬の葉の裏をびつしり覆ふ白い綿毛だけを集めたものにござる。

刈つた蓬を乾かし、臼で搗き、篩にかけ、葉肉や茎を落とす。これを幾度も繰り返して、ふんはりとした毛だけを残す。乾いた蓬から取れるもぐさは、およそ二百分の一と申しまする。

灸の一つまみの下に、それだけの手間がござつた。江戸の頃は近江・伊吹山のものが名高く、後には越後が主な産地となつてござる。

別解のこと

菖蒲・しょうぶ・ショウブ ── いづれも受け申す。この一問の芯は音にござれば、仮名で答へた御仁は三重の響きをそのまま掴んでござる。

勝負・尚武は、惜しうござる。三つの「しょうぶ」の一つを確かに掴んでござる ── されど其の三は「五月の空に響く」と問うてをり、軒に挿し、湯に浮かべる草が答にござる。

運・蓬は、受け申さぬ。いづれも鎖の途中の環にて、其の三の心になつてをらぬゆゑ。


同じ響きに、三つの字。

軒にあの草を挿したのは、その音が「武」に通うたゆゑにござつた。理屈が先にあつて音が続いたのではなく、音が先にあつて、理屈と暮らしが後から追ひついたのにござる。

言葉遊びは遊びでありながら、時に人の暮らしの形そのものを決めてしまふ。三段の鎖の果てに、さやうな一事が横たはつてござつた。

次なる謎、また改めて。

この一問に、絵はありません。盤は言葉の連なりだけです。

謎かけが三段。其の一と其の二の「心」が、そのまま其の三の問いになります。鎖の環を一つほどくと、次の環が現れる ── そういう仕掛けです。

三つの環の果てに何がいるかは、ほどいてみないと分かりません。

五月に投げた口上は、こうでした。

御題

【作問修行】連鎖謎かけ

・「富くじ」とかけて「人相見」と解く。
その心は【甲】。良くなければ始まりません。

・「据え灸」とかけ「草餅」と解く。
心は【乙】。これぞ主役です。

・【甲】とかけ【乙】ととく。
……五月の空に響く、その「心」は。

三段の鎖、一つずつ

其の一 ── 富くじも人相見も、当たり外れを言い当てる商い。良し悪しを言われるのは、目には見えない一字です。

其の二 ── 灸に据えるものと、餅に搗き込むもの。呼び名は違っても、野に生えるのは同じ一草。

其の三 ── 其の一と其の二の心を、声に出して並べてみてください。皐月の空から、同じ響きが返ってきます。

答えを見る

答えは 菖蒲(しょうぶ)です。

段心拠
其の一運富くじは運試し、人相見は運勢の見立て
其の二蓬(よもぎ)据え灸の主役はもぐさ、草餅の主役はよもぎ。同じ草の別読み
其の三しょうぶ運は勝負の運/蓬は端午の薬草、同じ節句の草が菖蒲

五月五日は尚武の節句、別名菖蒲の節句。勝負・尚武・菖蒲 ── 三つの「しょうぶ」が皐月の空に響き合う、そういう趣向でした。

前の二段はそれぞれ一掛け、三段目で三重の掛詞へ跳ね上がる形です。蓬と菖蒲がどちらも端午の二大邪気払いとして並び立つ点も、ひそかな結びになっています。

★ 解いた方への、二つの土産話

一、菖蒲湯の菖蒲と、あの紫の花菖蒲は、まったく別の草です。

五月五日に湯へ入れるのは、サトイモ科のショウブ〔最近の辞書では独立させて「ショウブ科」とするものも増えています〕。葉を揉むと強い香りが立ち、その香りこそが邪気を払うと信じられてきました。花は咲きますが、黄緑色の地味な穂で、愛でるようなものではありません。

一方、菖蒲園で見事に咲き誇る花菖蒲はアヤメ科。アヤメ・カキツバタと同じ仲間で、香りはほとんどなく、湯に入れても効き目はありません。

葉の形が似ていたばかりに、同じ名を負ったのです。「いずれアヤメかカキツバタ」と言いますが、混じりやすさで言えば、菖蒲と花菖蒲のほうがよほど厄介かもしれません。

なお「菖蒲」が「尚武」に通じるとして男子の節句と結びついたのは、武家の世に入ってからのことです。

二、もぐさと蓬は、同じ草でありながら、同じ物ではありません。

答え合わせでは「同じ草の別読み」と書きましたが、もう一段細かく言えば ── もぐさは、蓬の葉の裏をびっしり覆う白い綿毛だけを集めたものです。

刈った蓬を乾かし、臼で搗き、篩にかけ、葉肉や茎を落とす。これを何度も繰り返して、ふんわりとした毛だけを残す。乾いた蓬から取れるもぐさは、およそ二百分の一だと言われます。

灸の一つまみの下に、それだけの手間がありました。江戸の頃は近江・伊吹山のものが名高く、後には越後が主な産地になっています。

別解について

菖蒲・しょうぶ・ショウブ ── どれも正解とします。この一問の芯は音ですから、仮名で答えた方は三重の響きをそのまま掴んでいます。

勝負・尚武は、惜しいです。三つの「しょうぶ」の一つを確かに掴んでいます ── ただ其の三は「五月の空に響く」と問うていて、軒に挿し、湯に浮かべる草が答えです。

運・蓬は、正解としません。どちらも鎖の途中の環で、其の三の心になっていないからです。


同じ響きに、三つの字。

軒にあの草を挿したのは、その音が「武」に通じたからでした。理屈が先にあって音が続いたのではなく、音が先にあって、理屈と暮らしが後から追いついたのです。

言葉遊びは遊びでありながら、時に人の暮らしの形そのものを決めてしまう。三段の鎖の果てに、そのような一事が横たわっていました。

次の謎は、また改めて。

現代語でも読めます

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